自然の音の中で生きて眠るメリット中野孝次『清貧の思想』

2017年6月10日

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ISBN-13:978-4167523039
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ISBN-10:4167523035

地方に住み始めたとき、ムラ社会的な人間のつながりを理解し、方言に慣れることが、居心地のよさを確保する一手段でした。都会とは異なり、人の歩く速さ・情報の伝わり方が、どこかゆったりしていて体内時計が変化していくように感じたものでした。

地方に根を下ろし、社会生活に慣れようとする期間が長かったため、周りが地方を離れ、都会で生活するようになっても、彼らに対する特別な羨望もなく過ごせていました。それは、生活の拠点を移す体力も経済力も満たされているとは言い難いものにとっては、都合のよい理由だったのかもしれません。

田園風景の中で日常生活が始まったとき、四季のうつろいが身近にあることに何度も救われてきました。まさに今(初夏)、水田に水が引かれる頃になると水や草木の瑞々しい香りとともに、夜になると蛙の鳴き声が、ここかしこから聴こえてきます。蝉しぐれにも圧倒されましたが、気候的に過ごしやすい初夏の「蛙しぐれ」のほうが、風情を穏やかな気持ちで受け入れることができました。

環境に慣れなかったり、孤独を感じたりしたとき、早朝に鳴く小鳥のさえずり・野草の香りに「今」を生きていることを実感します。良寛は「草の庵に足さしのべて小山田の山田のかはづ聞くがたのしさ」と詠んでいますが、自然と一体化する心地よさは現代人も変わらぬ「たのしさ」です。

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こうして、インターネットに接続し、ブログを書いている「今」という一瞬は、次の瞬間には継続していないかもしれません。読んで下さっている画面の前の方とも一期一会です。ここ2〜3年ですが、年齢を重ねると自分が枯れていく侘しさを思うようになりました。それは、孤独に誰にも看取られずに消えていくような感覚です。

こうした思いを察してか、叔母が電話口で「ひとりじゃないよ」と言ってくれたことが、つい昨日のように思えます。枯れていく感覚を消してくれているのは、ほんの短い期間でしたが、思い出の中の教え子だったり、季節に美しく咲く花々だったりします。

初夏の夜の草木の香りと音に心地よさを感じ、日暮れとともに床につき、夜明け前に目覚めるとき、一瞬の「生」の儚さを感じる毎日です。

「清貧」これも一種の儚さか。愛読書にしていた彼方の彼に感謝の意を込めて。