出版物が与える想像。ベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体 ナショナリズムの起源と流行』

2017年6月10日

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ISBN-13:978-4904701089
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ISBN-10:4904701089

ベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体 ナショナリズムの起源と流行』(書籍工房早山、2007年)の原書初版は1983年であり、本書は1991年の増補版の全訳です。

副題に「ナショナリズムの起源」とあります。ナショナリズムに関して、現在から過去約2世紀を中心にヨーロッパ、ロシア、南北アメリカ、アジア等、各地域の宗教、政治、教育の史実を比較し、ナショナリズムがいかに想像され構築されていったのかを考察しています。

著者のスタンスである「ネーション(国民)、ナショナリティ(国民的帰属)、ナショナリズム(国民主義)、すべては分析するのはもちろん、定義からしてやたらと難しい。」(20ページ)という前提で「わたしの理論の出発点は、ナショナリティ、あるいはこの言葉が多義的であることからすれば、国民を構成することと言ってもよいが、それが、ナショナリズム (国民主義)と共に、特殊的文化的人造物であるということにある。」(21ページ)ということを念頭に読む進めていくと、「資本主義にいかなる超人的偉業が可能であるにせよ、死と言語は、資本主義の征服しえぬ二つの強力な敵だからである。」(82ページ)という意味が特別極端な発想ではないことに気づきます。

本書では「人間の言語的多様性という宿命性」(82ページ)と「均質で空虚な時間」(192ページ)は一見、対照的にとらえられます。ここに出版物の読み書きが加わると、「宿命性、技術、資本主義のあいだの相互作用」(83ページ)が鮮明になり、言語は想像の共同体と同様に「均質で空虚な時間」の中に漂っているという意識が生まれます。18世紀のアメリカの新聞を例に挙げ、「想像の共同体にとって、時間軸に沿った着実で揺るぎない同時性の観念は、決定的に重要であった。」(109ページ)という視点から、出版物がナショナリズムに与えた影響を推し量ることができます。

現在同じ場所で時間を共有していなくても、あたかも共有しているような感覚は、連帯感をもたらします。時間を切り取り、連続させ、確認し、共有するというサイクルは、出版物とナショナリズムの関係に埋め込まれています。

ただ、そこで気をつけたいのが誰かが作ったフィルターを通した情報も、想像の共同体になりうるということです。「よく知られる通り、本は出版され公共領域に入ると、著者の手を離れる。しかし、これがどれほど憂鬱なまでに的を得たことかを実感するのは、本が著者自身の知 らない言語に翻訳されたときのことである。」(375ページ)という、その「憂鬱」は著者が意図しないフィルターをかけられた場合です。

当記事のように、本の解釈を書き留め、インターネット上に載せることは、著者の意に反していることというおそれがいつもあります。それでも、このように文字 に残してしまうのは、有限の人生の儚さを自覚し、生きていることを実感したいからなのかもしれません。