美しき日本の杉と侘び寂び『日本の原点シリーズ 木の文化1 杉』新建新聞社出版部

2017年6月10日

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ISBN-13:978-4916194206
ISBN-13:9784916194206
ISBN-10:4916194209

毎朝、桜材の引き戸に手を添えて引く。

木材の柔らかさと木がすれる摩擦を感じ、その音を聞きます。

引き戸を通して桜の木を感じることができるのは、かつて生きていた木が私の一部になるような感覚に陥るからです。

桜が、日常の私ならば、杉は、非日常の私がいつもの私に戻るための赦し。

発行/伊澤和馬 編集/大澤一登『日本の原点シリーズ 木の文化1 杉』(新建新聞社出版部、2003年)は、杉産地の歴史、代表的な巨木、杉の特徴と利用方法を紹介した本です。

棟梁、建築家、デザイナー、研究者それぞれの視点から実証的に「杉」をとらえ、美しい日本の原風景にたたずむ杉が、荘厳な写真で眼前に迫ります。

コラム「木と健康」では、なぜ木材に囲まれて過ごすと快適に感じるかを図表でわかりやすく示唆。杉の特徴を象徴的に表すとき、大阪城茶室や金閣寺茶室を復元された木下孝一棟梁のお言葉にその重みがあります。

“「一番弱いもの(杉)が一番強い」ということを知ってください。杉はやさしさを備えた繊維で構成されています。人間も杉に見習うべきです。杉ほど魅力的な素材はありません。フローリング・腰板・外壁、さまざまなところに使える。やさしさ、耐久性、年がたてば、いっそう美しくなる。20〜30年でつぶしてはだめ。200〜300年で味が出ます。”(51ページ)

思えば、美術館・数寄屋造りで、樹齢を重ねた立派な杉に触れたり、見たりする機会が度々ありました。杉が県木指定された環境にいる恩恵です。そのような非日常の空間で、本来の私に戻れる安堵感、いいかえるならば空虚な私に還ると申しましょうか、杉が与えてくれる外界との接点を、読了後、手に取るように得られました。過去の点が現在に繋がる瞬間は、いつも心地よいものです。

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少し立ち止まってみたいと思いつつ、歩き続けなければならない、その繰り返しの生活の中で、自然に行う習慣があります。それは、足元のドア格子から見える石と植物の様子を愛でること。茶室内から「にじり口」を眺める視線の落とし方に似ています。視線の先は限られた景色ですが、そこから広がる世界の広さと深さを杉の美しさに重ねています。