現実と空想に偽りを拒むモーリス・センダック『ちいさなちいさなえほんばこ』

2017年6月10日

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ISBN-13:978-0060255008
ISBN-13:9780060255008
ISBN-10:0060255005

初めての誕生日が来る前に与えられた本は、モーリス・センダック(Maurice Sendak)の絵本でした。

30年以上途切れることなく、目に触れる位置に置いている『ちいさなちいさなえほんばこ』(冨山房、1981年)。原書は初版が1962年です。

『チキンスープ・ライスいり』『アメリカワニです、こんにちは』『ジョニーのかぞえうた』『ピエールとライオン』合計4冊が小箱に入っています。どれほど小さいかというと、『チキンスープ・ライス入り』の版面(絵を除く)のサイズが縦約7.5センチ、横約5.5センチ。このサイズはiPhone4sの画面とほぼ同一です。手のひらに収まるにも関わらず、しっかりとしたハードカバー。洗練された文具にも見えます。写真の状態は日焼けと使用感があり過ぎて、角が傷んでいます…。

モーリス・センダック氏は1928年生まれ。名立たる児童文学の受賞歴を持つアメリカの絵本作家です。モーリス・センダック著、脇明子・島多代訳『センダックの絵本論』(岩波書店、1990年)によると、1940年当時の著者の心境を次のように語っています。「(第二次)世界大戦が頭上にのしかかっているときに浮き浮きしていたのはまずかったという罪の意識のようなものが、あの日の思い出に影を投げているとすれば、それもまた『ピノッキオ』のかけがえのない思い出の一部です。私はまだ小さな子どもでしたが、この世界で何か恐ろしいことが起こっており、両親が死ぬほど心配しているのを知っていました。」(118ページ)

彼の作品全体に対する信念、それは子供の恐怖と不安を解放するのは空想であり、空想の中に人生を偽りなく反映することが「あらゆる偉大な芸術の基礎」(158ページ)になるということ、その背景には幼少期の「戦争」体験がありました。

『ちいさなちいさなえほんばこ』の内容をこちらに書き記すことは、これから始まるファンタジーを偏って固定しかねませんので、収録4冊の詳細は控えさせていただきます。簡単なまとめを書き留めることにしました。

 


1、『チキンスープ・ライスいり』

編年体の入門書。1月(January)からスタート、その後12ヶ月間を一月毎に区切り、各月の季節的な特徴が示されます。主人公の「ぼく」視点から、季節に応じたキーワードと絵が展開しますので終始退屈しません。

 


2、『アメリカワニです、こんにちは』

アルファベットA(a)からZ(z)の頭文字を冠する英単語26種類を紹介。各アルファベットひとつに対し絵が1枚添えられ、アメリカワニ家族の日常生活が描かれています。家庭生活の一例としてユーモアを交え記憶に残ります。

 


3、『ジョニーのかぞえうた』

タイトルのとおり1から10までの数字を、リズムにのせて歌えるようなテンポで1冊が完結します。絵が大きく配置されていますので、視覚からストーリーを認識しやすく、開くタイミングと文を読むスピードが計算されているような統一感です。昇順、降順の発見になります。

 


4、『ピエールとライオン』

主人公「ピエール」がある精神性を象徴しているとしたら、ライオンは、その監視役。忍耐と葛藤からは逃れられない隠喩に見えます。テーマは重いですが、ライオンの表情が生きているように豊かで暗くなりません。

 


以上4冊に登場するキャラクターの中には、他の著者作品にも姿を変えて登場しているのでは?と思われるものが多々あります。各絵本に現れる彼らは、新しい人格が与えられ生き生きとしています。音楽を聴きながら線を描くことを好んだ著者の筆のタッチが物語ります。

今の私は、『ケニーのまど』(冨山房、1975年)を読むと、かなり感情が揺れます。現状を認め、無理をさせず背中を押してくれるからです。読む子供の人格を尊重し、絵本が年齢問わず感情の起伏を生じさせる事実に遭遇し、普段より時間が濃く長く過ぎていきました。『ちいさなちいさなえほんばこ』を与えられてから後に続く時間、それは本を与えられていない前とは違う時間を過ごしてきた「私」に、ようやく出会えた喜びに近い感覚といえましょう。